通常、事務所家賃などの固定費は、一年ごとに、その一年分のみ経費計上していきます。
翌期に発生する家賃は当然翌期の経費ですし、今期分の経費として計上することはできません。
ところが、一定の条件はありますが、期末から向こう一年内に発生する経費を「前もって今期に計上する」ことも認められています。
つまり・・・今期の税金を節税できるということですね。
それが短期前払費用です。
節税方法の中では割とポピュラーなので、ご存じの方も多いと思われるこの「短期前払費用」ですが、あくまで「例外的措置」であるため、その適用条件がいろいろあります。
ご存知ですか?
あとあと税務調査で問題になる前に、先ずはその適用条件を整理したいと思います。
条件① 重要性の原則から考えて問題が無いこと
重要性の原則、簡単に言うと「金額が大きすぎるものは認めません」ということです。
では、幾らまでならOKなの?と思われるでしょうが、明確な基準はありません。
過去の判例等でいえば、月額300万円×5ヶ月分=1500万円の短期前払費用を認めた国税不服審判所裁決もあれば、販管費全体の5%にあたる短期前払費用が認められなかった東京地裁判決もあります。(その後最高裁で上告棄却、納税者敗訴決定)
認められなかったケースでは、短期前払費用の額が最終利益の10倍強であることや、金額自体が多額であることが理由となっています。
また、金額だけの問題でもなく、もっぱら節税目的のみで不用不急の前払いを行い、本制度を悪用するようなものについては、その異常性と不当性に着目し、その適用が排除されることもあり得ます。
条件② 等質・等量のサービスであること
等質・等量のサービスとは、例えば土地や建物の賃借料、生命保険や損害保険の保険料、器具や機械の保守料などが該当します。
一方、月刊誌の購読料や税理士報酬は等質・等量のサービスに該当しません。
また、売上・収益と対応する「原価」については、たとえ1年以内の前払いであれ、等質・等量であれ、サービスであれ、売上より先に計上することは認められていません。(例えば、固定費の事務所家賃は適用できますが、家賃収入と対応する支払家賃は適用できません)
短期前払費用は、受けるサービスの内容をよく吟味して、検討する必要があります。
条件③ 契約に基づいていること
もともと毎月払いなのに「こちらが勝手に年払いに変更しただけ」では、短期前払費用の適用はできません。
もちろん、口約束だけでも・・・ダメです。
月払契約の家賃を契約書の変更なしで一年分前払いしたとしても、適用は認められません。
適用を受けるためには、契約内容に従った前払いである必要があります。
大家さんや不動産会社から、一年分の家賃を前払することについて、書面で承諾書をもらうようにしましょう。
条件④ 決算月に支払うこと
例えば、3月決算法人の場合、4月から翌年3月までの家賃を「3月」に支払えば適用可能です。
一方、4月から翌年3月までの家賃を「2月」に支払った場合、適用はできません。
条件⑤ 毎期継続すること
「前期は黒字だったので短期前払費用を使ったけど、今期は赤字だから短期前払費用はやめておこう」ということは出来ません。
一度短期前払費用を使用した場合、その処理を毎年継続していかなければいけません。
たとえ赤字であれ・・・。
いかがですか?
かなり面倒ですよね?
でも、しかたないんです、「例外的措置」ですから。
「条件①重要性の原則」や「条件②等質等量のサービス」などは、根拠法令にも記載がないため、あとあと税務調査で否認されるケースも散見されます。
お気を付けください。
また、この方法で節税できるのは最初の適用年のみ、しかもキャッシュフローは悪化します。
ですので、個人的にはあまりお勧めはしません。
皆様はどうお考えになりますか?
最後にもう一つ。
短期前払費用処理した経費の「消費税」について。
向こう一年分の家賃を決算月に支払った場合、その消費税はいつの期間分として計算するのが正しいのでしょうか?
これに関しては、消費税法基本通達に
「1年以内の前払費用について法人税法の取り扱いにより支払時に損金経理(経費計上)しているときは、その支出をした日の属する課税期間において仕入税額控除をしなければならない」と定められています。
つまり、支払時に一括計上しなければならない、と。
ということは、税率が8%から10%に上がる場合で、その施行日が途中にある場合にはどうすればいいのでしょうか?
場合によっては損することもあり得るのでしょうか?
この場合には、旧税率部分のみ計算を行い、残る部分は翌期に計算するため、消費税上では「仮払金」として処理することになります。
つまり、「損も得もない」ということです。
川庄会計グループ 川庄公認会計士事務所 藤川 剛士
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