こんにちは。
2026年4月に川庄公認会計士事務所に入社いたしました、守永と申します。
前職では、商工会議所で経営指導員として働いていました。経営指導員とは、地域の中小企業や個人事業主の方から、資金繰りや販路開拓、補助金の申請など、経営に関するさまざまな相談を受ける仕事です。なかでも多かったのが、補助金の申請に向けた計画書づくりのご相談でした。
今回は、その現場で見てきたことの中から、医院経営にも役立ちそうなお話をお伝えしたいと思います。
小規模事業者向けの代表的な補助金に「小規模事業者持続化補助金」があります。販路開拓などの取り組みにかかる費用の一部を補助する制度で、商工会議所・商工会の支援を受けながら計画書を作るのが特徴です。
ただ、この補助金は、医師・歯科医師や医療法人が補助の対象外とされています(2026年11月時点の第20回公募要領による。最新の情報は公募要領をご確認ください)。クリニックの先生方にとっては、「なんだ、関係のない話か」と思われたかもしれません。
それでも今回この補助金を取り上げたのは、制度そのものではなく、計画書を作るときの「考え方」をお伝えしたいからです。
印象に残っているご相談があります。音楽教室を営む事業者さんから、「古くなったピアノを、補助金を使って新しくしたい」というお話をいただきました。
お気持ちはよくわかります。ただ、この補助金では、取り組みによって売上や利益がどう伸びるのかを計画書で説明する必要があります。古くなった設備を新しくするだけの「取替え更新」は、補助の対象外とされているほどです。ピアノを新しくすることで、売上がどう上がるのか。そこを筋道立てて書くのは、実はかなり難しいのです。
そこで、ピアノの話はいったん脇に置いて、教室の運営全体を見直すところから一緒に考えることにしました。お話を伺ううちに見えてきたのは、月謝の回収や管理に手間がかかり、本来の指導や生徒さん集めに時間を割けていないという悩みでした。
この悩みを出発点に、月謝の回収を効率化する仕組みづくりを計画の柱に据え、その中で、新しいピアノも取り組みに必要な投資の一つとして位置づけました。結果は採択です。欲しいものから考えるのではなく、事業の課題から考え直したことが、計画に一本の筋を通したのだと思います。
多くの計画書を見てきて感じるのは、採択に至らなかった計画書ほど、自社の強みを熱心に書いているということです。技術がある、品質に自信がある、お客様に喜ばれている。どれも大切なことですが、それだけでは「では、なぜ今この投資が必要なのか」が見えてきません。
実は、この補助金の公募要領には、計画書をどんな観点で審査するのかが公開されています。計画書は項目ごとに評価されるのですが、その最初に挙げられているのが「自社の経営状況分析の妥当性」です。そこには、次のように書かれています。
自社の経営状況を適切に把握し、自社の製品・サービスや自社の強みや弱みも適切に把握しているか。
出典:小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第20回公募 公募要領(第8版)※マーカーは筆者
さらに次の項目では、今後の方針や計画が、その強みと弱みを踏まえたものになっているかも問われています。つまり審査する側は、「自社の弱みをきちんと見つめているか」を、最初から確認しているわけです。
弱みを書き出すと、そこから「何が課題なのか」が見えてきます。課題が見えれば取り組むべきことが決まり、そのために必要な投資が決まります。弱み、課題、取り組み、投資が一本の線でつながったとき、計画書は自然と説得力を持つようになります。
ここで大事なのは、「問題」と「課題」を分けて考えることです。「問題」は、目指す姿と今の姿の差のこと。「課題」は、その差を埋めるために取り組むことです。先ほどの音楽教室の例を、この形で整理すると次のようになります。
図:あるべき姿・現状・問題・課題の関係(音楽教室のケース)
もう一つ、現場で何度も感じたことがあります。計画書を書く過程そのものが、経営者の方にとって大きな気づきの場になるということです。弱みを言語化してみて初めて、「このやり方で本当に続けていけるのか」と、ビジネスモデルそのものを見直すきっかけになった方も少なくありませんでした。
この考え方は、補助金を使わない医院経営にも、そのまま当てはまると考えています。
たとえば、新しい検査機器の導入を検討するとき。「最新の機器があれば患者さんが増えるだろう」と強みを伸ばす発想から入るのではなく、「どんな患者さんに、なぜ選ばれていないのか」という弱みから考えてみる。スタッフの採用であれば、「人が足りない」の一歩手前にある「なぜ人が定着しないのか」を書き出して言語化してみる。予約の取りにくさや待ち時間の悩みも同じです。
弱みから出発すると、投資の優先順位がはっきりします。本当に必要なのは機器なのか、仕組みなのか、それとも人なのか。その判断の土台になるのが、弱みを言葉にする作業です。
とはいえ、自分たちの弱みを自分で言葉にするのは、なかなか難しいものです。経営指導員時代も、第三者と話しているうちに考えが整理できた、という場面をたくさん見てきました。
補助金に限らず、設備投資や今後の事業について考えを整理したいときは、担当者を通じてでも構いませんので、お気軽にお声がけください。まずはお話を伺うところから、お役に立てればと思っています。
川庄会計グループ
川庄公認会計士事務所
守永
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