節税対策 - 2013-07-10

「資産フライト!」

Posted by 川庄 康夫
Yasuo Kawasho

1. 「財産債務の明細書」

 所轄税務署への個人財産の報告義務としては、所得税の確定申告年度に2000万円超の申告所得がある方の「財産債務の明細書」があげられます。この「財産債務の明細書」は、当事務所としても気をつけて作成していますが、不動産の譲渡等により、申告所得がたまたま2,000万円を超えた場合など継続提出していない場合など、失念するしてしまうことがあります。その場合は、税務署でその年度の確定申告のチェックが終った5月頃に税務署から「財産債務の明細書の提出が洩れています。早急に提出をお願いします。」と電話があったりします。

「財産債務の明細書」は、資産の種類毎に、例えば、土地・建物(取得価額又は固定資産税の課税標準額、有価証券(株式、国債、投資信託等)書画、骨董品等の美術品、刀剣等について記載報告の義務があります。但し「財産債務の明細書」の提出はあくまでも報告義務であり罰則規定はありません。この「財産債務の明細書」は税務当局が相続税の調査に役立てることを見込んだ資料収集の一環です。従って財産債務の明細書の提出が遅れた場合、「先生!明細書の提出を忘れていますよ。早く提出をお願いします。」と連絡がありますが、税務当局も罰則規定がないだけに、とりあえその条件に該当する人は形式だけでも提出があれば良いと思っている節があります。

 

2. 「国外財産調書制度」とは

 居住者の保有する国外財産の合計額が、その年の12月31日において5,000万円を超える場合には、その財産の種類・数量及び価額・その他必要な事項を記載した国外財産調書を翌年の1月1日から3月15日迄に提出しなければならないとされました。(平成24年度税制改正)

 国外財産とは「国外にある財産」とされており、国外にあるかどうかの判定については、財産の種類ごとに行なうことになります。例えば、「不動産又は動産」は、その不動産又は動産の所在地、「預金、貯金又積金」はその預金、貯金又は積金の受け入れをした営業所又は事業所の所在地により判定する、といった具合です。

例えば、HSBC(香港上海銀行)の東京支店で口座開設し、預金をしたり、投資信託を購入している場合は国外資産対象外となりますが、海外のHSBCの本支店で口座を開設し預金等を行った場合は「国外にある財産」として報告義務明細に記入しなければなりません。

国外財産の価額については、5,000万円超が対象となりますが、その価額は12月31日時点での時価又は時価に準ずるものとしての見積価額となり、外貨で表示されている財産の邦貨換算は、同日におけるTTBレート(対顧客電信買相場※1)を適用します。

 ※1 TTBレート:Telegraphic Transfer Buying Rate 銀行が外貨を買い取るときに用い

 られるレートです。

国外財産調書を期限内に提出していない場合や、提出した国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合(記載が不十分と認められる場合を含む)に、その国外財産に関して所得税の申告漏れ(死亡した者に係るものを除く)が生じたときは、過少申告加算税が5%加重されます。

また、故意に偽りの記載をした場合や、期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が処されることとなりました。但し罰則は適用1年後の平成26年12月31日時点の報告、即ち平成27年1月1日以後に提出すべき国外財産調書から適用することとなりました。

 

3. 資産フライト

 「財産債務の明細書」「国外財産調書制度」は、ともに相続税の申告漏れ防止が目的です。国税庁によると海外資産に係る相続税の申告漏れは、2010年7月~2011年6月で116件、前年同期に比して36%増加であり、又2011年7月~2012年6月の申告漏れは111件で5年前に比して40%増加しています。

 先日、東京から来た友人の税理士が「この国外財産調書制度ができた背景ですがね、100億円の資産を海外に移した人が35人もいたそうです。将来相続税の課税漏れとなることが予想されるので、この法律ができたのですよ」と言っていました。100億円の話はさすがにオーバーだろうと思いましたが、可能性がないとは言えないなと思って聞いていました。

 アメリカでは、海外の金融機関に1万ドル以上の資産を有する人は、IRS(内国歳入庁)への報告が義務付けられています。

2009年2月、スイスのプライベートバンク大手UBSが富裕な米国人顧客の脱税を幇助していたとして、総額7億8000万ドルの罰金を支払うとともに、285人の顧客名簿を米司法当局へ提出しました。今までは、スイスの銀行は完全な守秘義務で成り立っており、顧客情報は漏らさないという事で資金を集めてきましたが、それが壊れたわけです。米国の圧力の前では、完全な黙秘は困難であると思えますが、2013年6月19日、スイス議会は米国で脱税幇助の捜査を受けた銀行が当局に米国人の口座情報を提供できるようにする法案を廃案にしました。ドイツ、フランスなどの主要国が協調して脱税対策に動く中でのこの協力拒否に伴い、スイスと米国の対立が深まるのではないかと懸念されています。いずれにせよ、スイスのプライベートバンクの守秘性は崩壊した、との見方が大勢のようです。

日本は世界のほとんどの主要国と租税条約を締結し、脱税防止の為の情報交換の手続を定めています。しかし日本の税務当局は、自由に海外の金融機関の口座情報を入手できません。租税条約に基づく情報提供に際しては、調査対象となる個人・法人を特定するだけでなく、情報を保有・管理している機関(銀行等)の名称・所在地まで求められ、その上、情報提供に正当な理由があること、その情報が国内調査では入手困難であることを説明して、相手国の税務当局を動かすことができます。現実的には大口の脱税案件に限られるものと思われます。

日本国内の金融機関に対しては、税務当局は質問検査権を用いて顧客情報を提供させることができますが、海外の金融機関は日本の法令に従う義務がないので、たとえ租税条約を締結していてもきわめて限定した情報しか入手できないわけです。この不備を補うために「国外財産調書制度」が制定されたと思われます。

海外資産が5,000万円超の方は翌年の3月15日迄に報告する義務がありますし、海外で所得が発生した場合には、日本で申告の義務があります。海外金融資産を5,000万円超保有している人は、国内預金額を4~6億以上は保有していらっしゃるでしょう。そんなに多くの人が報告義務に合致するとは思えないのですが・・。そんなことを思っているのは私だけでしょうか?

 

川庄会計グループ 代表 公認会計士 川庄 康夫

Posted by Yasuo Kawasho
代表取締役 川庄 康夫

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